(3) 用途を限定すれば使える、と考えよう

高周波の工作をしていると、気分的にはついつい定番の高周波増幅素子を使いたくなるものです。
しかしながら、実際は必ずしもそうである必要はなく、低周波増幅用であってもfTがある程度高ければ発振や中間周波増幅ぐらいには普通に使えますし、HFや50MHz程度の周波数帯でC級増幅を行う程度でしたら、わざわざ直線性の高い高周波電力増幅素子を使うのはもったいないとも思えます。


既にパーツを貯めこんでいる方も少なからずおられるとは思いますが、パーツのストックを減らすほどの回路なのか、一考の余地はあるでしょう。例えば、7MHzの1W CW送信機程度であれば、製作記事通りに(今や200〜1000円もする)指定の素子を律儀に使う必要はないわけです。
そういう場合、どうすればいいのでしょうか。

(2) 現状を把握する

1990年代以降次々に廃番になっていった、アマチュアには定番のHF〜VHF用高周波電力増幅素子。その多くが2SC1900番台・2000番台の品番を持ちます。
1980年代は、当時の雑誌・書籍に載っている製作記事を見てパーツショップに行ってみると、地方でさえもこれらは潤沢に在庫があり、安価で入手できました。
しかしそのあたりの素子は、秋葉原日本橋のパーツショップに行ってみても、なけなしのパーツを買えるだけ買って家に溜め込む人のためなのか、オークション転売目的に買い荒らす心無い人のせいなのか、いずれにしろ軒並み漁り尽くされており、今やごく一部の店を除いて草の根も残っていない感があります。
ネット通販であれば、まだかつて栄華を誇ったこれら素子の多くが国内外で入手可能な場合もありますが、その大半が既に足許を見た値段になってしまっていて、飛ばすのを覚悟で気軽に実験する気分にはなれません。
トランジスターはオーディオ用真空管とは違ってディスコンになった素子は二度と生産されることはなく、またICやCPUとは違って完全互換の素子というのがまずありえないため、同じ品番を求めて余剰在庫の奪い合いになってしまいます。


ここ数年は団塊世代効果なのか、それが特に顕著のようです。
具体的な品番を挙げると電力増幅素子では

  • 小出力であれば2SC2053, 2SC1947, 2SC1970, 2SC1971等
  • 中出力では2SC1945, 2SC1969, 2SC2098等

など、HF〜VHFの直線増幅に使用可能な素子が高騰しているようです。
一方、CB用途で3〜5W/10Wクラスの出力が可能な素子であっても、以前はあまり市場に出回らずアマチュアでの自作例が多くなかった素子は、現在のところ比較的安価のようです。
ちなみに小信号FETでは高周波増幅の定番であった2SK439や2SK125あたりも入手は可能ですが、価格は数年前の5倍以上のようです。

(1) はじめに

昨今高周波電力増幅素子は、呆れるほど価格が高騰しているものが多くなってきています。
昔はCB用などに大量生産され100円〜200円前後で売られていたような素子が、今や500円、1000円などととんでもない値段で取引されるようになっているようです。


それでも値段が高いだけで手に入るのでしたらまだ良いのでしょうが、素子が無くなってしまっては自作という趣味自体が終わってしまいます。
これに対し我々アマチュアは、アマチュア的アプローチで現行のパーツを使いこなし「今、そこにある危機」を乗り切ろうではありませんか。

2SC1923

  • メーカー:東芝
  • 主要スペック(typical value)
    • VCBO 40V
    • Pc 100mW
    • fT 550MHz
    • パッケージ TO-92
    • 足のアサイン:正面左からECB
  • 関連情報
  • 入手先・価格など
    • 入手性:ディスコン品の模様だが市場在庫が多いため入手は容易であり、小売では@20〜50円が相場か。地方のパーツショップでもよく見かける。2007.7月現在、秋葉原の日米にて525円/100pcs、サトー電気の通販で42円。
    • 代替品:1923の上位ではあるが、2SC19062SC1907の項目を参照。
  • 所見:
    • 高周波用NPNトランジスタ。動作にクセが少なく、HF〜VHFの発振・混合・増幅等に広く適用可能。
    • オシレータやミキサーに使うのに適する。また比較的fTが高くNFが低いので、受信機では高周波増幅やIF増幅に使うと、2SC1815などの汎用品よりも低ノイズかつ出力を大きくとれる場合が多い。2SC1906よりfTが低いのと、あとPcが小さくパワーが稼げないので、アマチュア的に送信機の励振段として使うにはしんどい。
    • 特徴はなんと言っても小売価格が安いため、気楽に実験できること。滅び行く1906等に比べると多くのスペックで下であるが、用途を選べば代用品に使える。また、足のアサインが汎用トランジスタと同じ(左からECB)なので、取り替えて使うのが容易である。
    • Dは、古い無線機のメンテナンスを行う場合、2SC828, 2SC372, 2SC458C, 2SC460(特にトリオの無線機に多用された2SC460Bは悪名高いらしい)などといった、劣化しリード線が黒ずんできた古いトランジスタ、特に高周波用途の2SC828/829と460を取り替える場合にも使用している。
  • 関連情報:
    • 「HAM Journal」No.64『ユニット化によるハム用機器の製作』では”VXO局発ユニット”(2SC1923コルピッツ発振-3SK45バッファ)に採用されている。

1SV101

  • メーカー:東芝
  • 主要スペック
    • VR(逆電圧) 15V
    • C(3V) 28〜32pF(f=1MHz)
    • C(9V) 12〜14pF(f=1MHz)
    • パッケージ 1-4E1A(2SK439などの小信号FETなどに酷似したパッケージで、真ん中のリードが根元で切り取られている様に見える)
    • 足のアサイン:正面左からアノード、カソード
  • 関連情報
  • 入手先・価格など
    • 入手性:パーツショップでの入手は容易。サトー電気で210円/5pcs、日本橋のデジットで@70円。
    • 代替品:後述
  • 所見:
    • 電子同調用途の可変容量ダイオード(バリキャップ)。バリキャップ自体、全般に用途が減ってきておりに入手性が下がりつつあるが、1SV101は現在も容易に入手可能なものの一つである。
    • マチュアではバリコン代わりにバリキャップを使ってHF帯のVFO・VXOなどを組むケースが少なくないが、SSB/CWの送受信などの高い周波数安定度を要する用途の場合、チューニングにバリキャップを用いると、注入電圧をよほど安定化しない限り周波数の安定度は高く出来ない。そのため簡易受信機程度には十分だが、実用的な受信機や送信側での使用には酷な場合が多い。
    • 高安定度ののVXOを組みたい場合には、メインチューニングを小容量のバリコン、RITをバリキャップに担わすのが簡単かつ確実。
    • Qの低い同調回路で同調点を可変したい様な場合には非常に有効。
    • 自作無線機でよく使用される水晶ラダー型クリスタルフィルターについて、コンデンサの代わりにバリキャップを用いることで連続的な帯域可変を行う方法がJA6BI田縁氏により紹介されていた(HAM Journal 44号)。近年ではJARL QRPクラブのFujiyamaなどで採用された後、Web等で作例が散見されるようになった。
  • 関連情報
    • マチュアの定番として用いられてきた(あるいはかつて定番だった)バリキャップは、概ね以下の電圧-容量特性を持つ(これらは大まかな値をまとめたものであり、ロット内・ロット間のバラツキもあるので、目安程度にお考えいただきたい)。

1SV50 30〜6pF(3〜25V)
1SV55 40〜15pF(3〜10V)
1SV88 30〜3pF(3〜10V)
1SV100 400〜25pF(1.5〜10V)
1SV101 30〜13pF(3〜9V)
1SV102 400〜20pF(2〜10V)
1SV103 40〜15pF(3〜30V)
1SV146 30〜12pF(3〜8V)
1SV149 500〜25pF(1〜8V)

    • このように可変範囲-電圧は型番によってかなり異なっており、過去の製作記事等でバリキャップの型番が指定されている場合、そのまま他で代替可能なケースは少ない。ただし1SV50や88はFM用途の中では可変範囲が広いので、他素子と取り替えて使いこなせるケースもあるかもしれない。
    • マチュアがHF〜VHFの発振・同調用途に使用する場合、FM放送用途で可変範囲が10pF〜30pF前後のタイプが使いやすく、中波の電子同調用途のため高容量まで振れる1SV100, 102, 49は狭い電圧範囲で使うか特殊用途となりそう。1SV50, 103は表にある通り低容量側で25〜30Vを要するので、アマチュア的には(13.8V駆動では)使いずらいかもしれない。
    • 1SV55・88は近年入手難。ちなみに1SV99はバリキャップではなくPINダイオードである。